製品開発を通じて色々と経験を積むことができたので、一度腰を落としてクラウドアプリケーション開発向けの開発手法について考えてみることにしました。何回かに分けて考察していきたいと思います。
考察する開発手法は以下の2つの機能で構成されています。
- 開発プロセス
- モデル体系(メタモデル)
今回は開発プロセスの全体像についてまとめます。
クラウドアプリケーションは、スクラッチで開発するケースもあると思いますが、主流はクラウドアプリケーション向けのプラットフォーム上で必要な機能のみを開発することになるのではないかと推測しています。
この場合、クラウドアプリケーションの開発手法はクラウドアプリケーションのプラットフォーム上での開発を前提としたものが重要になってきます。
本稿ではこの前提の上で、クラウドアプリケーションのプラットフォーム上でのクラウドアプリケーション開発向けの開発手法をテーマにします。
アプリケーション開発の基盤となるクラウドプラットフォームをApplication Cloud Platform(以下ACP)と呼ぶことにします。
背景
クラウドアプリケーションは以下のような既存のアプリケーションの複合体と考えることができます。
- a) 消費者向けUX指向のBtoCアプリケーション
- b) 基幹システムや外部システムとの連携を行うInB, BtoB的な業務アプリケーション
- c) 利用者同士を結びつけてコミュニティを構築するPtoPアプリケーション
- d) 統合運用・管理システム
- e) 蓄積されたデータに対する分析・評価基盤
このような複雑なシステムをスクラッチで開発することはコストもかかりますし、長期の開発期間を必要とするためビジネス的にタイムリーなタイミングでリリースすることが難しくなります。
ACPは上記のような機能をビルトインしたプラットフォームであり、UXを実現するWeb/モバイルアプリと必要最小限のサーバー機能を開発するだけで、アプリケーションを開発することができます。
このようにACP上で動作するアプリケーション開発を行う場合、スクラッチでアプリケーション全体を構築する場合とは、異なった開発手法になってきます。
また、クラウドアプリケーションではアプリケーション開発の力点が、「アプリケーションを開発」することから、「ビジネスを駆動」することに移っていることも見逃すことができません。
単にアプリケーションを構築するだけでは不十分で、ビジネスのライフサイクルの中でアプリケーションの開発、運用、評価から次のビジネス設計に繋がるサイクルをまわしていく仕掛けを構築し、ビジネスに組込んでいくことが求められます。
以上のような点を念頭に置いたアプリケーションの開発手法が必要になってきます。これが本稿のテーマです。
開発プロセスの全体像
開発プロセスは4つのアクションで構成されます。
- Business Modeling :: ビジネス設計を行います。
- Development :: ACPアプリケーションの開発を行います。
- Operation :: アプリケーションを配備して運用します。
- Evaluation :: アプリケーションの動作結果を分析しビジネスや開発にフィードバックします。
これらの4つのアクションで一種のPDCAサイクルを構成します。
Business Modelingは、ビジネスレイヤーでの目標、価値などの分析を行いビジネスプロセスなどを用いてビジネス設計を行います。このビジネス設計の中で必要とされるアプリケーション・プログラムの責務が明らかになるので、これをDevelopmentアクションで開発を行います。
Developmentアクションでは、Business Modelingの成果物をベースにアプリケーションの開発を行います。Developmentアクションは必要に応じて繰り返し開発を行います。
クラウドアプリケーションにおいて重要な点として、アプリケーションの運用によって得られた各種データを分析してビジネスに対するフィードバックするというビジネス改善サイクルをどのようにして構築してビジネスに組込んでいくのかという点があります。
伝統的なアプリケーション開発ではこの活動はあまりフォーカスされていなかったので開発プロセスとしては中心的な話題にはなってこなかったと思います。(そもそもプログラムを作るのが大変だったので、そちらへの対応で力を使いきってしまっていたといえるかもしれません。)
一方、クラウドアプリケーションの場合ビジネス改善サイクルの構築とビジネスへの組み込みをいかに短く効率よく行うのかという点が主要な論点の一つとなっていると思います。1つにはACPによって複雑なバックエンドシステムを持つプログラムを開発することが簡単になったこと。また、ビッグデータ的なデータ活用技術の実用化によってビジネスにフィードバックするデータの分析が安価かつ容易にできるようになりました。
Operationで分析に必要なデータを蓄積すること、Evaluationで蓄積したデータを効率よく解析・分析してビジネスやアプリケーションの改善に必要なフィードバックを作成する作業をいかに行うのかという点が重要になります。
これらの2つのアクションではACPがプラットフォームとして提供するデータ分析基盤が非常に重要になります。
ACPのデータ分析基盤では、Operationアクションで各種データを標準形式で採取し、分析に適した形の分析データに再構成して管理します。Evaluationアクションではこれらの分析データを元に、各種分析を行いビジネスやアプリケーションへのフィードバックを作成します。
また、Business Modelingでは単にアプリケーションの要求仕様を抽出するだけでなく、全体ビジネスの中でのアプリケーションの位置付け、ビジネスの目標、価値といったものを踏まえてビジネス改善サイクルを組み込んだビジネス設計も同時に行うことになるでしょう。
開発の流れ
Developmentアクションでの開発の流れは以下になります。
- Requirement
- Design
- Implementation
- Test
- Integration Test
開発の各アクティビティは標準的なものです。
ただし、ACPを使う場合ターゲットのプラットフォームは決まっているためPSM(Platform Indepent Model)を作成するAnalysisは効果が薄いので省略しています。必要に応じてDesignの中で行うとよいでしょう
これらのアクティビティは流れ作業的に順番にこなしていくのではなく、適切なプロジェクト運営のもと効率のよい順序で作業していくことになります。
目安としては、図で示した通りDevelopmentアクション全体のイテレーション、Design, Implementation, Testのイテレーションを想定しています。
サブシステム毎の開発手順カスタマイズ
図はDevelopmentアクションのRealization部を詳細化したものです。
ここでは複数のサブシステムを個別に開発し、最終的に結合する開発を想定しています。
図では特に重要なものとしてPresentation, Service Extension, Configurationを示しています。
Presentation
PresentationはWebやiOS/AndroidといったMobileアプリの開発です。このRealizationは以下の3つのactivityで構成されることを想定しています。
- UX Design :: 画面設計を行います。
- Implementation :: アプリケーションを実装します。
- Test :: アプリケーションのテストを行います。
UX Designは画面設計や画面とAPCの提供するAPIなどの接続関係を設計します。
UX Designで行う画面設計はRequirementとの境界線が曖昧になりますが、開発中に顧客の意見を取り入れながら画面の調整を行う作業はUX Designの一環とします。(逆にRequirementでは、ペルソナやユースケースで利用者の体験する物語とドメインモデルの定義といった抽象度の高い成果物が中心となります。)
プロジェクト運営はアジャイル的なものを想定しています。
UX Design, Implementation, Testはこの順番に行うのではなく、作業の都合に合わせて任意の順番で行っていきます。
Service Extension
Service Extensionは、ACPが提供する拡張メカニズムに則ったプラグイン的な機能です。
ACP内に配備することで、ACPに対してアプリケーションが必要とする機能拡張を行います。
プロジェクト運営は計画駆動型を想定しています。
Service Extensionでは、基幹システムとの接続など、仕様がrequirement activityで明確に定義されるケースが多いと考えられるので計画駆動型が適していると考えています。もちろん、小規模開発など、場合によってはアジャイル型のプロジェクト運営が適しているケースも多いでしょう。
Configuration
アプリケーション向けのACPの振る舞いをカスタマイズパラメータとして設定します。
ここでは意図を明確にするために、独立した開発として示していますが、小規模開発の場合はPresentationなどの作業内で行われることになると思います。
Web/Mobileアプリ開発プロセス
「概要」の図に示す開発プロセスは汎用的な大きめの開発手順になっています。
さらに「サブシステム毎の開発手順カスタマイズ」の図ではPresentation, Service Extension, Configurationといった開発ターゲットごとの開発手順としてカスタマイズしています。
クラウドアプリケーションで多い形態は、フロントエンドのWeb/MobileアプリケーションのみUX重視で開発し、バックエンドサービスはACPのものをそのまま利用するものです。
このような開発では、多少ACPに対するconfigurationが発生しますが、基本的には従来技術であるWeb/Mobileアプリケーションの開発手法をそのまま用いてクラウドアプリケーションを開発できます。
Web/Mobileアプリ・プロファイルではこのような開発を想定したカスタマイズを行っています。
OperationやEvaluationはACPが自動的に提供してくれるため、開発エンジニアが特別に何かを開発する必要はありません。ただ、ACPが提供するAPIを使用する手順などで、何らかの意識は必要なのでWeb/Mobile開発者向けのユーザーガイドなどで、この点は明確化しておくことになるでしょう。
まとめ
今回はACPをベースにした、クラウドアプリケーションの開発プロセスの全体像についてざっくり考えてみました。
面白いテーマなので、引き続き考えていることをブログ化していきたいと思います。