2021年7月31日土曜日

Kaleidox/状態機械:ヒストリー

前回は状態機械のサブステートを用いてキャンセル機能を実現しました。

サブステートに並ぶ状態機械の重要な機能にヒストリーがあります。

ヒストリーは状態間の遷移時に、遷移元状態の履歴を保持しておく機能で、状態遷移後に元の状態に戻る遷移を行うことができます。

ヒストリーを用いることで、保留/再開機能を記述することができます。今回はこのヒストリーを使ってKaleidoxの状態機械で保留/再開機能を実現します。

モデル

前回のモデルに対して以下の拡張を行っています。

  • suspendイベント、resumeイベントを追加
  • 保留状態を示すsuspendedステートを追加
  • サブステートrunningの任意のステートでsuspendイベントにより保留可能にした

この拡張設定を行った状態機械の定義は以下になります。

* event
event=[{
    name="confirm"
  },{
    name="reject"
  },{
    name="delivered"
  },{
    name="cancel"
  },{
    name="suspend"
  },{
    name="resume"
}]
* statemachine
statemachine={
  name="purchase"
  state=[{
    name=INIT
    transition=[{
      to=running
    }]
  },{
    name=canceled
    transition=[{
      to=FINAL
    }]
  },{
    name=suspended
    transition=[{
      guard=resume
      to=HISTORY
    }]
  }]
  statemachine=[{
    name="running"
    state=[{
      name=applying
      transition=[{
        to=confirming
      }]
    },{
      name=confirming
      transition=[{
        guard=confirm
        to=confirmed
      },{
        guard=reject
        to=rejected
      }]
    },{
      name=confirmed
      transition=[{
        to=delivering
      }]
    },{
      name=rejected
      transition=[{
        to=FINAL
      }]
    },{
     name=delivering
      transition=[{
        guard=delivered
        to=delivered
      }]
    },{
      name=delivered
      transition=[{
        to=FINAL
      }]
    }]
    transition=[{
      guard=cancel
      to=canceled
    },{
      guard=suspend
      to=suspended
    }]
  }]
}

イベント

以下の6つのイベントを定義しています。

confirm
確認OK
reject
確認却下
delivered
配送済み
cancel
キャンセル
suspend
保留
resume
再開

前回のものからはsuspendイベントとresumeイベントを追加しています。

状態機械

定義したモデルを状態機械図で記述すると以下になります。

前回、サブステートrunningを作成し、applying, confirming, confirmed, rejected, delivering, deliveredの各ステートを定義しています。

以下の定義により新たに保留状態を示すステートsuspendedを作成し、サブステートrunningの任意のステートからの状態遷移ができるようにしました。ステートsuspendedからの遷移先はHISTORYになっているので、履歴情報にある直近のステートに復帰します。

  state=[{
...
  },{
    name=suspended
    transition=[{
      guard=resume
      to=HISTORY
    }]
  }]

サブステートrunningからは以下の遷移設定によって、任意のステートでsuspendイベントが発生するとステートsuspendedに遷移します。

    transition=[{
...
    },{
      guard=suspend
      to=suspended
    }]

実行

それでは実行してみます。

まず正常系とrejectイベントの2つのルートを確認します。これは前回と同じ動きになります。

この後に、今回のテーマであるサブステートを利用したsuspendイベント、resumeイベントの振る舞いを確認します。

正常系

最初に正常系の動きです。前回の正常系と同じ動きになります。

まずstatemachine-new関数で状態機械を生成します。生成する状態機械のモデル名はpurchaseです。

生成した状態機械をsetq関数で変数smに束縛します。

状態機械の名前はpurchaseです。状態機械の状態はconfirmingになっています。

kaleidox> statemachine-new 'purchase
StateMachine[purchase.running.confirming]
kaleidox> setq sm
StateMachine[purchase.running.confirming]

状態機械purchaseを作成すると、すぐにサブステートrunning内のステートconfirmingに遷移します。

次にevent-issue関数でconfirmイベントを発行します。

confirmイベント発行の結果、状態機械purchaseの状態はdeliveringになりました。引き続きサブステートrunning内です。

kaleidox> event-issue 'confirm
Event[confirm]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase:delivering]

次にevent-issue関数でconfirmイベントを発行します。

confirmイベント発行の結果、状態機械purchaseの状態はdeliveringになりました。引き続きサブステートrunning内です。

kaleidox> event-issue 'delivered
Event[delivered]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase:FINAL]

これで状態機械の状態遷移は終了です。

reject

続けてrejectイベントのルートも確認しておきます。

statemachine-new関数で状態機械purchaseを生成した直後はconfirming状態になっています。

ここでrejectイベントを発行するとモデルの定義どおり最終状態FINALに遷移しました。

kaleidox> statemachine-new 'purchase
StateMachine[purchase.running.confirming]
kaleidox> setq sm
StateMachine[purchase.running.confirming]
kaleidox> event-issue 'reject
Event[reject]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase:FINAL]

状態機械purchaseはrejectイベントを受信することで状態rejectedに遷移しますが、状態rejectedから最終状態FINALの間にガードがないので最終状態FINALに自動遷移しています。

suspendとresume

次はsuspendイベントです。サブステートrunning内の任意のステートでsuspendが可能になります。

状態機械purchaseを作った直後、状態機械はステートconfirmingになっています。

kaleidox> statemachine-new 'purchase
StateMachine[purchase.running.confirming]
kaleidox> setq sm
StateMachine[purchase.running.confirming]

ステートconfirmingでsuspendイベントを出してみます。以下に示すとおりsuspended状態になりました。

kaleidox> event-issue 'suspend
Event[cancel]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase.suspended]

ここでresumeイベントを出すと、suspended前の状態であるステートconfirmingに戻りました。

kaleidox> event-issue 'resume
Event[resume]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase.running.confirming]

次には、ステートdeliveringでresume/suspendの動きを確かめます。

状態機械purchaseを作った後にconfirmイベントを出し、delivering状態にします。

kaleidox> statemachine-new 'purchase
StateMachine[purchase.running.confirming]
kaleidox> setq sm
StateMachine[purchase.running.confirming]
kaleidox> event-issue 'confirm
Event[confirm]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase.running.delivering]

ステートdeliveringでsuspendイベントを出してみます。以下に示すとおりsuspended状態になりました。

kaleidox> event-issue 'suspend
Event[suspend]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase.suspended]

ここでresumeイベントを出すと、suspended前の状態であるステートdeliveringに戻りました。ステートsuspendに遷移する前のステートを覚えていて、そのステートに復帰することが確認できました。

kaleidox> event-issue 'resume
Event[resume]
kaleidox> sm
StateMachine[purchase.running.delivering]

まとめ

今回はスブステートをもった状態機械モデルで保留機能をモデル定義し、Kaleidox上で動作させてみました。

前回実現したキャンセル機能と今回の保留機能は実用アプリケーションでは頻出の機能ですが、スクラッチで実装するのはなかなか大変だと思います。これらの機能がモデル定義のみで使用できることは、モデル駆動開発の大きなメリットといえます。

諸元

Kaleidox
0.3.1