2024年3月31日日曜日

Cozyモデル駆動開発/成果物の管理

今回はCozyモデル駆動開発で作成する成果物の管理方法について考えてみます。

ファイル構成

図はCozyモデル駆動開発におけるプロジェクトのファイル構成の案です。

プログラムはScalaによる記述を想定しているのでsbtのファイル構成を踏襲しています。

srcディレクトリの配下に以下のディレクトリを配置します。

main
メインのソースコード
test
テストのソースコード

さらにmain配下に以下のディレクトリ配置します。

cozy
Cozyモデル
scala
Scalaプログラム

以下でそれぞれの内容について説明します。

Cozyモデル

src/main/cozyディレクトリにCozyモデルを格納します。

Cozyでは、Cozyモデルと後述のScalaモデルの両方のコンテンツの情報を統合してプロジェクトのCozyモデルを作成します。

CozyモデルはScalaモデルで記述しきれない仕様をCozy形式で記述します。

cozyディレクトリには以下のディレクトリを配置します。それぞれのディレクトリが対応するモデルを格納します。

  • business : ビジネス・モデル
  • requirement : 要求モデル
  • analysis : 分析モデル
  • design : 設計モデル

ビジネス・モデル

businessディレクトリにはビジネス・モデルを格納します。

ソフトウェア開発におけるビジネス・モデルでは、開発するソフトウェアのビジネス上の位置づけや用途などのビジネス文脈を記述します。

ビジネス・システムを駆動するビジネス・モデルを作成し、これをソフトウェア開発の入力にするのが理想ですが、そのような本格的なアプローチが取れない場合はソフトウェア開発に必要な範囲でビジネス文脈を整理するのがよいでしょう。

前回はEssenseのアルファとしてビジネス・システム・アルファとして定義しました。

記述するモデルの候補としては以下のものが考えられます。

  • ビジョン
  • ゴール
  • ビジネス・コンテキスト
  • ビジネス・ユースケース
  • ドメイン・モデル

また、ビジネスの計測と結果のフィードバック・ループに対応するため以下のモデルについても扱っていく予定です。

  • KGI(Key Goal Indicator)
  • KPI(Key Performance Indicator)

モデルは基本的には通常ファイルに自然言語のテキストとして記述する形になりますが、コンテキスト・モデルは図として記述するのが適切なので、これをどのように記述するのかは工夫が必要そうです。

要求

requirementディレクトリには要求モデルを格納します。

記述するモデルの候補としては以下のものが考えられます。

  • ビジョン
  • ゴール
  • コンテキスト・モデル
  • ユースケース

ビジョン、ゴール、コンテキスト・モデル、ユースケースはビジネス・モデルと同じ項目ですが、開発対象となるソフトウェア・システムのビジョン、ゴール、コンテキスト・モデル、ユースケースという点が異なります。

またビジネス・モデルで定義したKGIやKPIも、必要に応じて要求モデルに引き継がれるでしょう。

モデルの記述方法はビジネス・モデルと同様に通常ファイルに自然言語で記述するものが中心となります。

分析

analysisディレクトリには分析モデルを格納します。

作業分野「分析」と「設計」はEssense標準ではShape the Systemアクティビティ空間に所属するアクティビティということになるでしょう。

分析はPIM(Platform Independent Model)を、設計はPSM(Platform Specific Model)を記述するというモデルの抽象度に違いがあります。

しかし、実装主導の開発では開発ではPIMを意識しつつPSM主体の設計になると思うので、実務的には要求から直接設計に進み、必要に応じて分析も行う、というところが実際のところかもしれません。この点も加味して分析について検討していく予定です。

設計

designディレクトリには設計モデルを格納します。

設計モデルでは、実装に直結したモデルを構築します。

設計モデルを考える上で重要なのはプログラム自身が設計になっているといる点です。特にオブジェクト指向プログラミングで記述した場合には、オブジェクト・モデルとのインピーダンス・ミスマッチが低いので、場合によってはそのままモデルと考えてもよいかもしれません。

しかし、プログラミングの場合はプログラム動作上のさまざまな処理を追加していくため、抽象的なモデルとずれてきたり、境界が曖昧になってきます。この問題に対応するためアノテーションの仕組みを使ってモデルとして扱う箇所とモデルとして位置づけを記述していくことになるでしょう。また、JavaやScalaではプログラム内に仕様を自然言語で記述する仕組みがあるので、これを用いてより詳細にモデルの情報を記述することができます。

すべてのモデルをアノテーション付きプログラムで記述することはできないので、この記述できない部分は別の形でモデルを記述することになります。

一つはドメイン・モデルなど定型化して形式で記述したモデルです。

このモデルからはインタープリタで直接実行したり、実装を自動生成することができます。

最後にアーキテクチャ全体の情報やコンポーネントやクラスなどの仕様に関して自然言語による記述を行う場合があります。このような記述は通常ファイルに記述した上でプログラム・モデルと統合して設計モデルを組み上げていくことになるでしょう。

Scalaプログラム

本シリーズではプログラミング言語にScalaを用います。

Scalaプログラムとして開発するソフトウェアの本体のプログラムとテスト・プログラムを作成します。

本体

開発ターゲットの本体のScalaプログラムはsrc/main/scalaディレクトリに格納します。

前述したようにScalaプログラムにアノテーションとScaladocを併用することで、モデルとして扱うことができます。

プログラミング言語としてScalaを使用するので、Scaladoc形式でインタフェース仕様を記述します。

Cozyは、モデル、プログラム、テスト・ケースからそれぞれに記述された仕様を集め、マージしたものをプロジェクトの仕様として統合します。

テスト

Scalaによるテスト・プログラムはsrc/test/scalaディレクトリに格納します。

Cozyモデル駆動開発ではTDD(Test-Driven Development)、BDD(Behavior-Driven Development)でテストを動く仕様(executable specification)として扱っていきます。

これはテストを要求仕様、コンポーネント仕様として作成して活用していくという意図があります。

この場合は、自然言語で記述した要求モデルとどのように連携していくのかがポイントとなるでしょう。

TDD, BDDの基盤としてscalatestを使用する想定です。

まとめ

今回はCozyモデル駆動開発で作成する成果物の管理方法について考えてみました。

次回はビジネス・モデルについて具体的に考えていく予定です。

2024年2月29日木曜日

Cozyモデル駆動開発/ビジネス・モデリング

モデル駆動開発ワークベンチCozyを使用したモデル駆動開発を具体的に考えて、Cozyへの機能要件を洗い出しています。

Cozyを使用したモデル駆動開発をCozyモデル駆動開発 (Cozy Model-Driven Development)、略してCMDDと呼ぶことにします。

ビジネス・モデリングの位置付け

まず最初の作業分野はビジネス・モデリングです。

ビジネス・モデリングの関心分野の候補としては、カスタマー(Customer)とソルーション(Solution)が考えられます。

Essenceカーネルではカスタマーには以下のアルファが定義されています。

  • ステークホルダー(Stakeholders)
  • 機会(Opportunity)

またソルーションには以下のアルファが定義されています。

  • 要求(Requirements)
  • ソフトウェア・システム(Software System)

ビジネス・モデリングをどの関心分野のどのアルファにどのような形で組み込むかは、開発プロセス内でのビジネス・モデリングの目的によって変わってくるところでしょう。

CMDDでは小規模チームで、中小規模アプリケーションまたは大規模アプリケーションのサブシステムの開発をターゲットにします。

ビジネス・モデリングは要求アルファの入力の情報になるものなので、ソルーションの補助的な活動と考えると要求アルファにアクティビティと成果物を追加するアプローチも考えられます。

また、ビジネス・モデリングはソルーションの外側、カスタマー側の情報と考えるとカスタマー側に配置することも考えられます。その場合はステークホルダー、機会といったアルファに入れるよりも、新しくビジネス・モデリングを行うアルファを追加するのがよさそうです。

今回は関心分野カスタマーに新規のアルファとしてビジネス・システム・アルファを追加して検討を進めることにします。

ビジネス・システム・アルファ

ビジネス・モデリングではビジネス・システムをモデリングします。

このビジネス・システムをモデリングするアルファをビジネス・システム・アルファとします。ビジネス・システム・アルファの成果物(Work Product)として以下のモデルを考えます。具体的なモデルを作ってみて調整していく予定です。

  • ビジョン
  • ビジネス・コンテキスト
  • ビジネス・ユースケース
  • ドメイン・モデル

ビジョン

ビジョン(Vision)はプロジェクトのビジネス・システム上のビジョンです。

プロジェクトの全体の方向性を定めます。

このビジョンをベースに、要求アルファでソフトウェア開発上のビジョンを定める想定です。

ビジネス・コンテキスト

ビジネス・システムのおかれている環境をビジネス・コンテキストとしてモデル化します。

ビジネス・システムと関係する外部組織の存在とインタラクションを明確にします。

ビジネス・ユースケース

ビジネス・ユースケース(Business UseCase)はビジネス・システムにおけるユースケースです。

ビジネス・コンテキストの舞台の上で、ビジネス・システムの各種利用者が体験する物語を記述します。

開発対象のソフトウェア・システムはこの物語の中に登場し、物語の遂行を助けます。

要求アルファで作成する(システム)ユースケースは、ビジネス・ユースケースの物語の中での利用方法を切り口に・ソフトウェア・システムと利用者の対話の物語を記述することになります。

ドメイン・モデル

ドメイン・モデル(Domain Model)はソフトウェア・システムの操作対象となる問題領域(problem domain)のモデルです。

ドメイン・モデルはビジネス・システムとソフトウェア・システムで一本化したいので、その方向で検討を進めます。

ただ、ビジネス・システムとソフトウェア・システムのモデルの規模が違いすぎる場合は別立てで管理した方がよいかもしれません。そのあたりの考察も進めていきたいと思います。

まとめ

今回は要求アルファの入力となるビジネス・モデリングの扱いについて考えてみました。

ここでは、関心分野カスタマー側にビジネス・システム・アルファとして入れることにしましたが、その是非は今後の考察で検討していきたいと思います。

次回は、ビジネス・システム・アルファの具体的な検討に入る前に、モデルなどの成果物の管理方法について検討します。

2024年1月31日水曜日

Cozyによるモデル駆動開発

モデル駆動開発のエコシステムを支えるキーパーツとして、Webアプリケーション・フレームワークのCozy Webを開発してきました。

今回からCozyを使用したモデル駆動開発について具体的に考えていきたいと思います。

Cozyは現在開発途中ですが、モデル駆動開発に必要な機能を拡張していく上でどのような機能が必要かの洗い出しが目的です。要求モデルにおけるユースケース分析的なアプローチですね。

EssenceというOMGが標準化している開発方法論フレームワークの枠組み、用語を使用して考えていくことにします。

実際の検討に入る前に、今回は開発方法論を記述する言語として使用するEssenceについてみていきます。

Essence

EssenceはSoftware Engineering Methods and TheoryObject Management Group®によって作成された開発方法論のフレームワークです。

  • https://www.omg.org/spec/Essence/

Essenceでは開発方法論を記述する言語(Language)と基本的な枠組み(Kernel)を定めており、この骨組みにプラクティスで肉付けすることで開発方法論を定義します。

Essenceの言語では、従来のモデリングの用語に加えて、新しい用語が導入されています。その点も含めて用語の整理をします。

基本概念

アルファ

アルファ(alpha)は開発作業を進める上で必要な各種概念を表現したものです。アルファの具体例として要求(requirement)やソフトウェア・システム(software system)があります。

アルファに対応する日本語用語はないと思うので、本Blogではアルファの用語を使います。

ワーク・プロダクト

ワーク・プロダクト(work product)はソフトウェア開発の各種成果物です。

ワーク・プロダクトの例としては要求仕様(要求アルファ)やコード(ソフトウェア・システム・アルファ)があります。

アクティビティ

アクティビティ(activity)はソフトウェア開発の活動を表現します。

アクティビティの例としては「ミーティングを開く(Holding a meeting)や「コードを書く(Writing Code)」があります。

アクティビティ・スペース

アクティビティ・スペース(activity space)はソフトウェア開発の活動分野を表現したものです。

アクティビティ・スペース内でアクティビティが実行されます。

アクティビティ・スペースの例としては「ステークホルダー・ニーズを理解する」や「システムを実装する」などがあります。

コンピテンシィ

コンピテンシィ(competency)は作業を進めるのに必要な各種能力です。

コンピテンシィの具体例としてはステークホルダー代表(カスタマー関心分野)や開発(ソルーション関心分野)などがあります。

関心分野

Essenceではソフトウェア開発の関心分野(area of concern)として以下の3つを定義しています。

  • カスタマー
  • ソルーション
  • エンデバー

Essenceのアクティビティはこの関心分野のどれかに所属することになります。

カスタマー

カスタマー(customer)はソフトぅエア・システムの利用方法についての関心分野です。

Essenceカーネルではカスタマーの関心分野で以下のアルファを定義しています。

  • ステークホルダー (stakeholder)
  • 機会 (opportunity)

また以下のアクティビティ・スペースを定義しています。

  • 可能性を探る (Explore Possibilities)
  • ステークホルダー・ニーズを理解する (Understand Stakeholder Needs)
  • ステークホルダーの満足を確保する (Ensure Stakeholder Satisfaction)
  • システムを利用する (Use the System)

ソリューション

ソルーション(solution)はソフトウェアの実現に関しての関心分野です。

Essenceカーネルではソルーションの関心分野で以下のアルファを定義しています。

  • 要求 (requirement)
  • ソフトウェア・システム (software system)

また以下のアクティビティ・スペースを定義しています。

  • 要求を理解する (Understand the Requirements)
  • システムを形作る (Shape the System)
  • システムを実装する (Implement the System)
  • システムをテストする (Test the System)
  • システムを配備する (Deploy the System)
  • システムを運用する (Operate the System)

エンデバー

エンデバー(endevor)は直訳すると「努力」ですが、ここではチームが努力して進める活動というような意味合いから選ばれた用語ではないかと思います。

エンデバーに対応する日本語用語はないと思うので、本Blogではエンデバーの用語を使います。

Essenceカーネルではソルーションの関心分野で以下のアルファを定義しています。

  • チーム (team)
  • ワーク (work)
  • 仕事の進め方 (way of working)

また以下のアクティビティ・スペースを定義しています。

  • ワークの準備をする (Prepare to do the Work)
  • アクティビティを協調させる (Coordinate Activity)
  • チームをサポートする (Support the Team)
  • 進捗を追尾する (Track Progress)
  • ワークを止める (Stop the Work)

まとめ

本ブログでCozyを使用したモデル駆動開発に対する分析を始めることにしました。

開発プロセスを記述するためのフレームワークとしてOMGのEssenceを使用します。今回はその準備としてEssenceの用語の整理をしました。

次回はビジネス・モデリングんいついて考えます。