2011年11月21日月曜日

「崖っぷちの欧州、ローマの炎上を許すな」のマインドマップとクラス図

11月19日(土)に横浜モデリング勉強会を行いました。
参加者6名で、懇親会も盛り上がりました。
また、会場には(株)アットウェア様の会議室をお借りしました。
参加された皆さん、アットウェア様、どうもありがとうございました。

この勉強会で、浅海が作成したモデルを紹介します。
モデルはMindmapModelingの手法で作成しました。(勉強会で使用したチュートリアル)

モデリングの対象は、JB PRESS誌に掲載されたMartin Wolf氏の記事(FT誌の翻訳)「崖っぷちの欧州、ローマの炎上を許すな」です。前回と同様に、時事ネタなのと、いろいろな情報が交錯していて、一見焦点が絞れないところが、モデリングの練習によい感じです。
この記事における現実世界の構造をオブジェクトモデルとして抽出します。

まず、最初の作業で記事中から単語を抜き出します。
単語を抜き出しながら、登場人物、道具、出来事を中心にMindmapModelingの定めた分類に従って仕分けしていきます。
この結果、できた最初のマインドマップが以下のものです。(図をクリックすると拡大します。)


次の段階では、抽出した、登場人物、道具、出来事の洗練を行います。
用語の名寄せ、用語の種類(generalization)や部品構成(aggregation)を整理していきます。
また、この段階で区分(powertype)の抽出を開始します。
以上の作業を行った結果のマインドマップは以下のものです。



このマインドマップをSimpleModelerでクラス図に変換すると以下のものになります。「国」を中心に、ある程度構造化ができていますが、まだまだ中に浮いたクラスがあることが分かります。


次の段階では、対象となる世界の動的な側面を捉える出来事や物語を整理していきます。
出来事や物語を洗練していくことによって、出来事や物語における登場人物や道具の役割が明確化され、より登場人物や道具の構造をさらに洗練させることができます。
出来事や物語で抽出した役割は、役割(role)としてモデル化して「役割」構造枝に配置し、役割の持つ構造を洗練していきます。

今回は、EUの「中心にいる国々」(事実上、ドイツですが)が主役の物語「欧州連合を救う」と、ギリシャやイタリアなど「支援を受ける側」が主役の物語「経済破綻を回避する」の2つの物語を軸にモデルを整理していきました。

今回のモデルでもう一点ポイントになるのがドメイン・ルール(Domain Rule)、制約条件です。
記事からは「緊縮財政政策 ⇒ 内需が弱くなる」、
「景気が回復しない ⇒ 投資家の信頼感を取り戻す可能性は低い」、
「構造改革 ⇒ 労働市場に影響を及ぼす」、
「労働市場に悪影響 ⇒ 社会的・政治的な混乱」、
「社会的・政治的な混乱 ⇒ 投資家の信頼感は揺らぐ」、
「競争力が回復する ⇒ 人員解雇と名目賃金下落をもたらす」、
「人員解雇と名目賃金下落 ⇒ 失業と社会不安、債権者の不安感」といったルールが抽出できます。

救う側であるEUの「中心にいる国々」も、「支援を受ける側」もこれらの制約条項の上で、金融政策、財政政策、労働政策などを立案、遂行していく必要があります。この記事の場合、こういった制約群で合成される非常に厳しい全体制約が物語の遂行をほぼ実現不可能にしているという絶望感が記事の重要なテーマと考えられます。
逆に、針の穴を通すほどの小さいストライクゾーンとなる、実現可能な組合せは何かというのが、テーマとしてあぶり出されてくるわけですね。
この「実現可能な制約条件の組合せ」の抽出は、システムを実現する上での重要なモデル要素なので、MindmapModelingでもモデルを記述することができるようになっています。これが、BOI構造枝「規則」(Domain Rule)というわけです。

MindmapModelingではBOI構造枝「規則」に記述するDomain Ruleの命名法や構造などは特に定めていません。現状では、OCLのような非常に限定した形でしか、制約を記述して実装に落し込む手法が一般的になっていないからです。
(ルールエンジンなどの商用ミドルウェアやJSR 94 Java Rule Engine APIなどは存在していて一部では活用されていると思いますが)

ただ、最近は関数型言語が実装言語として視野に入ってきたので、このあたりとの接続を念頭において、「規則」の記述方法について文法の拡張を行うことを考えています。
今回は、論理結合子「⇒」(ならば, conditional, material implication)を使ってみました。最終的には、実装の自動生成時に関数型言語が扱える論理式を自動生成するのが目標です。

とはいえ、「緊縮財政政策 ⇒ 内需が弱くなる」という論理式は「緊縮財政政策」ならば必ず「内需が弱くなる」ということですが、現実には100%ということはないので、現実世界のモデリングには使いづらい面があります。参考情報に留めるのか、様相論理の可能性演算子(◇, possibility operator)といったものを導入するか、色々と考えてみたいところです。

以上の作業の結果、作成したマインドマップが以下のものです。


このマインドマップをSimpleModelerでクラス図に変換したものが以下の図です。


以上のマインドマップとクラス図が勉強会で作成したものです。

クラス図にしてみると、名寄の甘いところや、モデル要素のステレオタイプの選択などで問題があることが分かります。
そこで、SimpleModelerでのクラス図生成を繰り返しながら洗練したマインドマップと、このマインドマップからSimpleModelerを使って生成したクラス図は以下のものです。



記事における現実世界の構造がそれなりに上手くとらえられていると思います。

このように記事を詳細にモデル化すると、記事の内容がより深く理解できますね。

「支援を受ける側」が取り得る方法は、制約条件の組合せからほぼ:
  • 緊縮財政、構造改革する。
  • 緊縮財政、構造改革による内需の縮小は、外需の取り込みでカバーする。
  • 緊縮財政、構造改革による社会の不安定化により、投資家が投資を引き上げないために不安感を払拭する対策を行う。
しかないことが分かります。

EU圏外の国から外需の取り込みを行うことも、社会の不安定化を払拭する施策も、相当難しそうですが、このあたりが今後のEUの動向を見定めるポイントかもしれません。

緊縮財政、構造改革を行う国が唯一取れる成長戦略が外需の取り込みである以上、自国通貨の切り下げ、相手国関税、非関税障壁の撤廃が最重要戦略となるわけで、(EUは入れてもらえませんが)最近TPPが政治的なイシューになっている背景がなんとなく見えてきますね。(記事の内容からの推論なので、感想の妥当性は無保証ですw)

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