ここ数年Apparel Cloudの開発に携わっています。
Apparel Cloudはアパレル向けのクラウド・サービスを実現するためのサービス・プラットフォームで、サーバーサイドの実装はScala+ScalazによるMonadic Programmingを採用しています。
また、サービス企画からクラウド・サービス向けの仕様策定にはオブジェクト指向開発の伝統的なモデル体系をクラウド・サービス向けにチューニングしたものを用いています。
実システムの構築にこれらの新しい技術を適用して一通り材料も揃ってきたので、クラウド・サービス開発の枠組みとその要素技術について整理していこうと思います。
今回はモデリング体系の枠組みの整理です。この枠組みをベースに、個々の要素技術の詳細化を行っていく予定です。
枠組み
大枠では以下のような枠組みを考えています。
- Service Platform as-a-Service
- Object-Functional Programming
- Object-Functional Analysis and Design
まず、クラウド・サービスの開発はスクラッチ開発ではなく、Service Platform上でのカスタマイズや追加機能をプラグインとして開発する形を想定しています。
また、プログラミング・モデルはオブジェクト指向と関数型を併用したObject-Functional Programmingです。並列、並行、分散、ストリーミングといったクラウド時代の要件を満たすためには関数型の導入が必須となるためです。
スクラッチ開発ではなくサービス・プラットフォーム上でのカスタマイズ+プラグイン、オブジェクト指向と関数型を併用したプログラミング・モデルという2つの大きな枠組みの変更は、当然ながら要件定義から分析・設計の一連の技術にも影響を与えます。
Service Platform as-a-Service
クラウド・サービスの開発では、スクラッチでシステムを組むというより、既存のサービスを組み合わせた上で、必要な部分だけ開発するという形が基本です。
このアプローチの核になるのがService Platformです。さらにService Platformをクラウドサービスとして提供したものをService Platform as-a-Service(SPaaS)と呼ぶことにします。
SPaaSが提供するプラットフォームを利用することで、クラウド・サービスの開発と運用をより簡単に実現することができます。
Apparel Cloudは、アパレル業界でのO2O用途向けのSPaaSということになります。
本稿を起点とする一連のブログ記事では、SPaaSの具体的な紹介や利用方法というよりも、SPaaSの存在を前提としたクラウド・サービス開発のモデリング(Object-Functional Analysis and Design)やプログラミング・モデル(Object-Functional Programming)を整理し、可能な範囲で体系化していきたいと考えています。
Object-Functional Programming
Object-Functional Programming(OFP)はObject-Oriented Programming(OOP)とFunctional Programming(FP)を融合させたプログラミング・モデルです。
FPはアルゴリズム記述の容易性や信頼性、保守性の向上がメリットですがOOPと比べると以下の問題点もあり、エンタープライズ分野では限定的な利用にとどまっていました。
- 実行性能の低下
- メモリ消費の増大
- 難易度の高いプログラミング・モデル
- (エンタープライズ的な意味で実績のある)安定した実行環境
- 開発エコシステム(開発環境、クラスライブラリ、コミュニティなど)
しかし、クラウド時代に入って以下のような目的により積極的に採用する必要性が出てきています。
- 並列・並行・分散プログラミング
- 大規模データ処理
- ストリーミング処理
- 問合せ処理
- DSL(Domain Specific Language)
特に、モナド(monad)という新しい概念をベースとしたMonadic Programming(MP)、MPをベースにしたFunctional Reactive Programming(FRP)が、本質的なプログラミング・モデルの変革をもたらします。
さらに、既存のOOPとの併用・融合も新しいテーマとなってきます。
本ブログでは今までも、これらのテーマについてScala+Scalazによるソリューションについて検討してきました。今後も引き続きこのテーマについて検討を進めていきますが、可能な範囲で今回提示した枠組みであるSPaaS、OFADとの関係についても考えていきたいと思います。
Object-Functional Analysis and Design
サービス企画の要求をまとめて、サービス開発に落とし込むためのメソッドはObject-Oriented Analysis and Design(OOAD)が基本になりますが、Service Platform as-a-Service(SPaaS)とObject-Functional Programming(OFP)という2つの中核的な技術変革により要件定義から分析・設計に至る一連のアクティビティにも大きなインパクトが出てくることが予想されます。
OOADについては、以前大学で教えていた時の内容を以下の2冊にまとめています。
現時点でもこの内容がボクとしての結論で、大きな枠組としては変わっていません。
ざっくりいうとボキャブラリとなるドメイン・モデルと物語であるユースケースを起点としたアプリケーション・モデルの二系統のモデルを軸に業務モデルからObject-Oriented Programming(OOP)による実装までの一連の開発アクティビティを一気通貫でカバーしています。
このOOADに対して、SPaaSとOFPの成分をどのように織り込んでいくのかという点が論点となります。本ブログでは、これらの要素を織り込んでOOADを拡張した方法論をObject-Functional Analysis and Design(OFAD)と呼ぶことにします。
まとめ
材料が揃ってきたので、クラウド・サービス開発の方法論の整備を始めることにしました。今回は議論のベースとなる枠組みを整理しました。
Monadic ProgrammingやFunctional Reactive Programmingを中心とするObject-Functional Programmingは、今まさに技術革新が進行中のホットな技術分野であり、本ブログの中心的なテーマとして取り上げてきました。今後も基本的には変わらないスタンスですが、今回提示した枠組みであるSPaaS、OFADとの関係についても併せて考えていきたいと思います。
Object-Functional Analysis and Designは、既存のOOADがベースなので既存のものと大きな違いはない想定ですが、SPaaS成分、OFP成分が入ることで相応の拡張が必要になりそうです。Apparel Cloudでの実践で得られた経験をもとに体系化を進めていきたいと思います。
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