2012年3月23日金曜日

DSL指向プログラミング

3月19日(月)に要求開発アライアンスのセッション『Object-Functional Analysis and Design: 次世代モデリングパラダイムへの道標』を行いましたが、説明を端折ったところを中心にスライドの回顧をしていきたいと思います。

「アプリケーションの階層と役割」として用意した以下のスライドを説明します。

なんだかんだいっても関数型言語はやはり難しいし、さらにオブジェクトと合体したオブジェクト関数型言語となると、使うのがさらに難しいというのが実際のところでしょう。

ScalaはBetter Javaとして使う道もあるので、それに徹すれば普通のOOプログラマにとって、習得はそれほど難しくはありませんが、プロジェクトで使用する第一プログラミング言語を選定する際に、Better Javaという理由だけでプログラミング言語を定番言語から新興言語にスイッチするのはリスクが大きすぎます。

また、現状Scalaの入門/解説の書籍、記事の多くは「関数型」の華やかなところにスポットライトを当てているので、Better Javaのための情報はなかなか入手することができません。この点でも、Better Java効果を期待してScalaを導入するのは難しくなっています。(拙作の入門書はBetter Javaにフォーカスしています、と宣伝。Amazonでは評判は悪いみたいですが(笑)。)

このため、OFADの以前に、「OOPもうまく使いこなせていないのに、そもそも関数型言語が流行るの?」という疑問が出てくることが想定されるので、それに対する解として用意したのがこのスライドです。

従来から、アプリケーションをスクラッチで全部書くというのは稀で、普通は何らかのフレームワークを使用し、その土台の上にビジネス・ロジックを構築していきます。SIerや大手のソフトウェアハウスは、自分の事業ドメインに特化したフレームワークを持っているのが普通ですし、そうでない場合もOSSのフレームワークを使用するのが普通です。

データ設計は上流で行うとして、プログラマの仕事は用意されたデータモデルを操作してフレームワーク上にビジネス・ロジックやUI操作を宣言的あるいは手続き的に記述していくことに費やされます。この場合、OOPの知識はそれほど必要ではなく、フレームワークのしきたりの理解のほうがより重要になってきます。XYZという名前のフレームワークがあったとすると、OOプログラミングというより、XYZプログラミングというようなプログラミングスタイルになってくるわけです。

このXYZプログラミングをJavaで行うと、フレームワークとJavaの間にボイラープレートと呼ばれる繋ぎコードが沢山必要になって、生産性が今ひとつ上がりません。また、以前好まれていた宣言的な記述をXMLで行う手法は、(1)XMLの編集が大変、(2)XMLとJavaの繋ぎのところで静的型付けの効果がなくなる(プログラムが脆弱になる、デバッグが大変)、という問題があるため最近は回避する方向にあります。最近主流なのはアノテーションによる方法ですが、記述力が限定的なので、万能というわけではありません。

この問題の解として今後主流になると予想されるのが関数型言語によるDSLです。関数型言語は言語の自己拡張性によって内部DSLの実現に向いていますし、Scalaは各種文法糖衣で内部DSLの実現をさらに容易にしています。

DSLは(1)大きくプログラミング言語に埋め込む内部DSLと、(2)独立した専用言語の外部DSLの2種類に分けることができますが、前者はさらに(1a)モデルを記述するDSLと(1b)フレームワークのAPIとしてのDSLに分けることができます。

この(1b)フレームワークのAPIとしてのDSLが、今後最も注目される技術の一つと思います。今回のセッションでも、Hadoop向けDSLであるSpark、Scaldingと、ESB(Enterprise Service Bus)であるApache Camel&EIP向けのScala DSLを紹介しました。また、丸山先生の「エンタープライズ・クラウドの現在」ではScala DSLベースのWebアプリケーションフレームワークPlay 2.0が取り上げられていました。

DSL指向フレームワークとDSL指向プログラミング

図では、アプリケーション層、DSL層、フレームワーク層の3層でのアプリケーションアーキテクチャを示しています。(今考えてみると、アプリケーション層は、ビジネス・ロジック層あるいはアプリケーション・ロジック層の方がよかったような気がします。)

このDSL層とフレームワーク層は、極少数のエンジニアが作成することになるので、OOPでも関数型でも、高度な技術を持っていることを前提としてかまいません。逆に、このフレームワーク&DSLが、いかに高機能かつ使いやすいものになるのかが、SIerやソフトウェアハウスの核心的競争力になるので、関数型でも何でもいかに高度な技術であっても使えるものはきちんと使う、という事になるはずです。つまり、この用途にオブジェクト関数型言語が利用されるようになるのは、必然といってよいでしょう。

もちろん、フレームワーク層で使っている技術の難しさがアプリケーション層に出てしまってはいけません。

そこで登場するのがDSLです。Spark、Scalding、Apache Camel&EIP向けのScala DSLの例を見ても分かるとおり、下層のフレームワーク、ミドルウェアの難しさを完全に隠蔽して、プログラマには論理的なデータフローに見せることに成功しています。これまでは、これをJavaで実現しようとしたものの前述したような問題が出てきて今ひとつうまくいかなかったわけです。

アプリケーション層については、OOPや関数型の知識があればより効率的なプログラミングが可能になるのは言うまでもありませんが、DSLでビジネス・ロジックを記述していくだけであれば、OOPや関数型のスキルがあまりなくても大丈夫です。Scala DSLの場合は、DSLで記述するところはScalaで書いて、そこから先はJavaを使うという道もあるので、さらに導入の閾値は下がります。

アプリケーションはDSLつまり専用言語を用いたプログラミングを行うことになります。このように、従来的なAPIではなくて、専用言語であるDSLでの使用を前提としたフレームワークを今後、このブログではDSL指向フレームワークと呼ぶことにします。ある意味、前述したフレームワーク指向のXYZプログラミングをより進化させたものがDSL指向フレームワークによるプログラミングとうことになります。これはDSL指向プログラミングと呼ぶことにしましょう。

ボクが以前から取り組んでいるDSL駆動開発は、モデルをDSLで記述するのに加えて、DSL指向フレームワークによるDSLプログラミングも加えた、DSLを柱とした開発が、今後のソフトウェア開発の主軸になるのではないかという提案でもあります。このDSL駆動開発によって、モデリングとプログラミングが一体になる/できるというのがこのブログのタイトルである「Modegramming」の意図です。

関数型言語やオブジェクト関数型言語は、このDSL駆動開発という文脈で考えてみると、今後のソフトウェア開発における重要性がみえてきます。関数型言語は、メニーコアやクラウド・コンピューティングにおける並列、分散への対応でも必須の技術になりつつありますが、これに加えてDSL駆動という軸も合わせて視野に入れておく必要があるでしょう。ソフトウェア開発へのインパクトではDSLの方が、より広範囲で深いのではないかと思います。

諸元

当日使用したスライドは以下のものです。(PDF出力ツールの関係で、当日は非表示にしたスライドも表示されています)

このスライド作成の様子は以下の記事になります。

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